こんにちは、JR大阪駅前のTFPグループの
税理士法人トップ財務プロジェクト代表の岩佐孝彦@税理士です。
先週衝撃のニュースがありました。
『ZOZO ヤフーへ売却』
有名女優との交際、月旅行計画。
そんなカリスマ経営者の前澤氏が社長を突然退任することを発表。
創業者利益として、ヤフーへの身売りで、
約2400億円が入るとか。買収総額は4000億円。
ヤフーにとって買収額は過去最大規模。
10月に社名は『Zホールディングス』へ。
ヤフーは楽天とアマゾンへ対抗し、ECサイトで1位を目指す。
EC業界に大きな変革の波が見られました。
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前澤氏は絶妙なタイミングで、会社を手放した??
ご自身のエクジット戦略として、M&Aを検討している。
そんな経営者には今回のZOZO売却は、
学びになるかもしれません。
今まで景気を牽引してきたEC業界も、
ついに成熟期の後半に突入。
そんなタイミングで…
ヤフーによるZOZO買収は行われたのです。
ZOZOを取り巻く内部環境と外部環境の
両面から詳しく考えてみましょう。
まず、ZOZOの内部環境です。
2019年3月決算は連結純利益が対前期比21%減。
1998年設立以来、初の減益決算。
損益だけでなく、キャッシュフローも悪化。
同期末の現預金残高は30億円減。
自己資本比率は57.7%から28.6%へ大幅に低下。
財務内容は明らかに変調していました。
次に、ZOZOの外部環境です。
いま消費増税を目前に控えています。
9月4日付の日経新聞にこんな記事が出ていました。
『消費者心理40歳境に明暗 年功賃金 見直し響く』
記事によれば、中高年の消費者心理が悪化しています。
年金生活者が消費増税への不安を強める。
40~50代は賃金の伸び悩みが響いているとか。
消費税率10%となれば…
消費心理の悪化にますます拍車がかかる。
結果、衣料品通販サイト運営の
ZOZOの業績はさらに悪化していくのか?
このように見ると、
前澤氏の今回の判断の背景には、
内部環境と外部環境の存在があります。
前澤氏は先見性を持った経営者でいらっしゃいました。
「ファッション通販のリーディングカンパニーになりたい。」
前澤氏はそんな理念を掲げ、
2004年にソゾタウンを立ち上げる。
ゾゾタウンのサイトは、衣料品通販の先駆けとなりました。
同サイトのおかげで地方に住む消費者でも、
原宿の最先端のファッションブランドを
手軽に購入できるようになりました。
そして、CGを駆使。
サイトを実際の店の雰囲気に近づけるよう、
買い物の楽しさを演出。
ロックバンドのメンバーだった前澤氏の革新的な運営で、
若い女性を中心とした消費者の支持を集めてきました。
敬服の限りです。
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そんなZOZOが大きく変わったのは、
2年前の2017年夏。
ゾゾタウンへの出店企業が1000店突破。
ここからアマゾンを強烈に意識するようになったとか。
アマゾンに対抗すべく、ZOZOが打ち出したのが、
『ゾゾスーツ』
の開発でした。
「服に自分を合わせるのではなく、
自分に合った服を作り出す。」
そんなコンセプトの採寸型スーツです。
しかし、ゾゾスーツは生産が間に合わない。
想定以上に採寸の手間がかかり、
消費者の不満が多く、不発に終わる。
一度狂った歯車は逆回転を続ける。
1年前まで飛ぶ鳥を落とす勢いのあった
ZOZOに何があったのか??
その背景の一つに『有料会員向け割引サービス』
がありました。
《総額1億円のお年玉》
そう題したキャンペーンでした。
100名に100万円を現金でプレゼント。
当時は大きな話題となりました。
しかし、商品を一律に割り引く内容が
ブランド価値を毀損する。
オンワードホールディングスやミキハウス。
そうした出店企業の反発を招く。
出店を取りやめる“ゾゾ離れ”を招いたのです。
某アパレル企業幹部はこう言ったとか。
「かつては格好の良かったサイトが、
低価格ブランドが増えて、ただの購入しやすいサイトに
なってしまった。」
定価販売で返品不可。
そんな当初の収益モデルが崩れていきました。
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値引きは最も安易な経営努力である。
そんなふうに言われます。
利益貢献度の高い施策は一体何か?
経営のセオリーとして、肝に銘じておくべきでしょう。
実は、収益モデルの粗利益率によって
順位が異なります。
▼粗利率50%超の場合
*1位 値上げ
*2位 増販(販売数量UP)
*3位 原価低減
*4位 固定費削減
▼粗利率50%以下の場合
*1位 値上げ
*2位 原価低減
*3位 増販(販売数量UP)
*4位 固定費削減
1位と4位は同じ。
ただ粗利率によって、2位と3位は変わってきます。
経営者に多い勘違いはコレです。
「1割値上げしても、1割増販しても、
経営的に同じじゃないの??」
確かに値上げも増販も売上高は同じ。
しかし、利益への影響は大きく違います。
例えば、以下の例で見てみましょう。
▼売価 100円
▼原価 60円
▼販売数量 100個
1割値上げすれば、売価110円。
値上分10円×100個=1000円。
これがそのまま利益として残ります。
一方、1割増販した場合はどうか?
増販分10個について、新たに商品を仕入れる必要が生じる。
つまり、1個増販で増える利益は、
40円(100円-60円)のみ。
よって、10個余計に売れても…
400円(40円×10個)しか利益は増えないのです。
▼1割値上げ … 利益1000円
▼1割増販 … 利益400円
その差は2.5倍。
このように同じ1割の改善でも、
『値上げの方が増販よりもはるかに利益貢献度は高い』
ことが理解できます。
逆に言えば…
『値上げのプラス効果が大きい
= 値下げのマイナス効果は大きい』
ということです。
1割値引きすれば、1割増販でOK??
これは違います。
値引きをすれば、その値引き幅以上に
大きく増販しなければ、結果的に粗利益も減るのです。
ZOZO売却劇の一つの引き金として、
間違いなく言えるのは、
『有料会員向け割引サービス』
だったのです。
収益性を悪化させた結果、ブランド価値を毀損させた。
稲盛和夫氏の名言『値決めは経営』はまさに的を得ている。
今回のZOZO売却劇から、
このことを学ぶことができます。
今日も社長業を楽しみましょう。