こんにちは、大阪駅前の税理士法人トップ財務プロジェクトの岩佐孝彦です。
今日の一冊はコチラ。
『「家業」は継いでも「事業」は継ぐな』大島伸夫(幻冬舎)
昨夜は日本生命主催のセミナーで、神戸オリエンタルホテルで講師を務め
ましたが、セミナー後の懇親会では、事業承継にかかる相続税に頭を悩ませ
ていらっしゃる方の他に、
「うちの今の内容じゃあ、子供に継がせられない。子供がかわいそうだ。」
「私は印刷業の三代目だけど、今の事業内容では存続できない。
高校生の娘は進学校に通っているので、医学部に入れて、病院に業態を変えて
存続の道を探りたい」
といったような声を聞きました。中小企業の廃業は社会的問題ですね…(汗)
そこで今日は中小企業存続のためのヒントとなる本です。
それでは本日の赤ペンチェックを見てみましょう。
▼多くの場合、創業者にはカリスマ性があり、その経営は絶対的で
アンタッチャブルなものとされています。
特に同族経営におけるオーナー経営者の場合はその傾向が強いことでしょう。
しかし、経営を取り巻く環境が激しく変わるなか、先代の経営を見直し、
改革する勇気も必要です。
後継者には、創業者の経営を見直し、時代に合った事業構造に改革し、
会社を存続させていく実力が求められるのです。
▼「親辛抱、子楽、孫貧乏」
これは、創業者は苦労して会社を興すが、引き継ぐ二代目にその苦労はない。
二代目が楽をして経営をすれば、会社は衰退して三代目でつぶれるという俗諺です。
親が築いた財産は三代でなくなるという教訓として使われる場合もあります。
▼企業風土を変えるために、水を入れ替えるか、金魚を入れ替えるか……
後継者が、事業継承の直後に最初に手掛けなければならないのは、実は
古参社員の問題かもしれません。
古参社員は、先代とともに会社を守り育ててきた功労者であり、創業者と
ともに彼らが会社を創り上げてきたといっても過言ではありません。
こうした古参社員の扱いは、私と同じ境遇の後継者が一番悩まれるところ
ではないでしょうか。
事業継承の際の古参社員の処遇は、「先代とともに退任してもらう」または
「事業継承後も引き続き幹部として働いてもらう」の二つのどちらかです。
企業の社風は、長く現場の最前線で働いてきた古参社員が築き上げてきた
ともいえます。だからこそ彼らがいる限り、企業風土を完全に変えることは
難しいのです。単刀直入にいえば、後継者の経営に納得できない、あるいは
ついてこられない古参社員に対しては辞めてもらうほうが、人材育成を
円滑に進めるうえではいいでしょう。
▼私の会社は父の時代に過去に二度、大きな事業革新を行っています。
一度目は、大手スーパーとの取引を機に紙袋製造業に参入したことです。
社名を変更し、それまでの主力品目だった荷札と裏カーボン印刷から
角底紙袋製造業へと業態転換を果たしました。
二度目は、その大手スーパーとの取引を止めて、主に代理店や大手印刷会社
の下請けへとシフトしたことです。
当時の印刷業界は日本経済の成長とともに発展していたので、一度目の変革と
同じく、当グループの今日に至る経営を方向付けたといえます。
▼そして、三度目の事業革新と位置づけているのが、新たな販売チャネルとして、
Eコマースへ参入したことです。
かつて時代の変化に応じて、また市場のニーズに応じて業態転換してきたように、
今回の事業革新もインターネットという新たな市場開拓に挑んだのです。
それまでの営業スタイルは、印刷会社を代理店とする下請けが中心でした。
しかし、リーマン・ショックによる不況の煽りを受けるなか、下請けで受注を
確保し、同時に価格を維持するのは難しくなっていました。
今後はダイレクトセールにも注力し、エンドユーザーから直接仕事を請ける
直販体制も構築しなければ、受注の減少、受注価格の下落に歯止めをかけられ
ないという危機感を抱いたのです。
▼ネット販売にチャレンジしたのには、もう一つ理由がありました。
多くの中小企業は資金繰りの問題を常に抱えています。
私の会社も同様、支払いを伝統的に手形でいただくケースが多く、そのため、
手形割引に頼った資金繰りにならざるを得ませんでした。
特に120日を超えるような、回収までのサイトが長い手形の場合、その資金繰りが
悪化し、財務体質を弱体化させます。
Eコマースの場合、キャッシュオンデリバリーが基本なので、資金繰りには
大いにプラスです。資本金に乏しい中小企業にとって、Eコマースは魅力的な
事業だったのです。
▼「よくこの会社を継がれましたね」
これは私が社長に就任した当時、ある銀行の支店長から言われた一言です。
16億円もの借金を抱え、事業のマーケット規模もそれほど大きくない会社を
継いでさぞ大変なことで……そんな意味だったのでしょうか。
そもそも事業は「興す」もので、「継ぐ」ものではありません。
経営が右肩上がりの成長を続けていた時代に創業した先代の事業を継ぎ、
本格的な人口減少に入った現在に、同じ経営戦略を続けていくことには
無理があります。
事業の継続のみを目指すのであれば、事業をある程度にまで縮小していく
ことも可能でしょうが、事業の縮小とは、つまり従業員の雇用を脅かす
ことにもつながります。
これは、経営者としては、苦渋の決断でしょう。単純にそんな辛い思い
をしてまで、会社を継ぎたくありませんでした。
面白くない事業を継ぐぐらいなら、新たに事業を興した方がどれほど
楽しいか。私自身、海外事業を始めたことで気づかされました。
▼結局は、現地を自分の足で歩き、自分の目で見て、耳で聞いた情報を
判断材料の決め手にするしかないのです。
海外進出の決断をするのは経営者であり、コンサルタントが判断ミスの
責任を取ってくれるわけではありません。
▼低成長時代の経営に行き詰まりを感じている後継者は、まず視察でも
旅行でもいいので、東南アジアの地に足を踏み入れてほしいと思います。
現地の風を肌で感じることができれば新たなアイディアも生まれてくる
でしょうし、日本では見出せなかった希望の光が見えてくるはずです。
事業は継ぐものではなく、【興す】ものというフレーズは胸に突き刺さりました。
経営者はいかなる時も守りに入ってはいけないんですね。
今日も社長業を楽しみましょう。