こんにちは、JR大阪駅前のTFPグループの
税理士法人トップ財務プロジェクト代表の岩佐孝彦@税理士です。
トヨタ自動車の豊田章男社長が先日、こんなコメントされました。
「終身雇用を守っていくというのは、
なかなか難しい局面に入ってきた。
今の日本を見ていて感じること。
それは、雇用を続ける企業に対する
インセンティブがあまりないことだ。」
このコメントが多方面に波紋を呼び、ネット上では批判や動揺の声。
『サヨナラ 終身雇用』
そんな文字もネット上に飛び交っています。
先日の決算発表で、増収増益を発表。
上場企業で日本初の売上高30兆円を突破。
そんなトヨタ自動車でも…
今日の激変する経済情勢を見れば、
終身雇用を維持するのは困難である。
そう判断されていらっしゃるわけです。
「悲観的に準備し、楽観的に行動する」
「最悪を想定し、最善を尽くす」
そんなマインドを根底に感じさせる
豊田社長のお言葉には重みがあります。
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日本企業は長らく、労働者に優しいと言われてきました。
「日本的雇用」の代名詞もありました。
出光佐三氏(出光興産創業者)には、こんな名言があります。
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社員は家族だ。
家計が苦しいからと家族を追い出すようなことができるか。
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『人間尊重主義』、『大家族主義』。
そんな経営哲学は多くの共感を呼びました。
しかし、時代の波には勝てないのか??
今年4月に昭和シェルとの経営統合へ。
創業家は当初、合併に反対し続けました。
その理由は、社風の違いだったとか。
労組がある、外資系のシェル。
一方、創業以来、労組のない出光。
昭和シェルは、和の精神を重んじる出光と
真逆の組織風土だったようです。
しかし、紆余曲折がありながらも、
出光と昭和シェルとの合併が決まったのです。
社風の全く異なる2社の合併により、
出光佐三氏の創業者精神が失われるのか?
今後注目されるところです。
また、松下幸之助氏(パナソニック創業者)
はかつてこんなスローガンを掲げました。
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社員は家族と同じ。絶対に解雇しない。
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この理念こそ、日本的経営の象徴とも
過去言われてきました。
しかし、パナソニックも時代には勝てない?
近年2万人の大リストラを断行。
先日の決算発表でも増収増益でした。
しかし、この背景には、年金制度の見直しがあったとか。
つまり、福利厚生制度の見直しにより、
利益を出したのです。
このような経済情勢の中で、
既存の人事制度や企業文化を根本から覆す。
そんな人事制度が紹介されている
書籍が光文社より出版されています。
『NETFLIXの最強人事戦略』
NETFLIX(= ネットフリックス)
とはどんな組織なのか?
DVDの郵送レンタルサービスから、
20年余りで世界1億4千人が利用する。
そんな世界最大の映像ストーリミング
サービス企業へ急成長を遂げる。
なぜ、ネットフリックス社は、
成長し続けられるのか?
1998~2012年にかけて、
最高人事責任者を務めたマッコード氏。
彼が同書で明かした人事戦略は、衝撃の内容でした。
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会社はスポーツチームであって、
家族ではない。
優れたスポーツチームが常に
最高の選手をスカウトし、
そうでない選手をラインナップから外す。
それと同様に、NETFLIXも
チームを組み換えていかねばならない。
急激に変化する事業に対応するため、
持っているスキルが必要でなくなれば、
多大な貢献をした才能豊かな人であっても、
進んで解雇しなければならない。
……………………………………………………
人事責任者が『解雇』を奨励する。
日本企業では、考えにくい思想です。
わが国には『解雇濫用の法理』があります。
労働契約法16条において、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして無効とする。」
と定められています。
ただ税理士として多くの組織を
見てきた中で目にしたのは、
【退職者が出た後、組織が新たに生まれ変わり、
業績が飛躍的に向上する】
という現象が起きること。
退職者が出ることは決して、マイナスではありません。
その後、新たな人材を採用し、
組織に新陳代謝をもたらす。
そんなプラスの効用を同社は実践しているのです。
マッコード氏も同書の中で、
以下のように語っています。
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従業員定着率は、チームづくりや
文化のよしあしを測る指標に適さない。
単に組織につなぎとめている
従業員の数ではなく、
必要なスキルと経験を備えた人材の数を
示す指標が必要だ。
チームづくりで犯しがちな、
もう一つの間違いがある。
今の人材が成長して、将来必要な職務を
担えるようになると思い込むことだ。
今のチームがこの先必要なチームになる
と期待してはいけない。
今のチームが今後予想される変化の多くに
対応できないことが往々にして露呈する。
今のチームではなく、
将来のビジョンを出発点として、
理想のチームを作る方がいい。
……………………………………………………
トヨタ社長の先日の「終身雇用は難しい」
のお言葉の根底にも、
ネットフリックス社のマインドを感じます。
ネットフリックス社の人事戦略の
領域に近づくために必要なことは何か?
マッコード氏は、この課題に解決する
ための方法を編み出しました。
具体的には以下のエクササイズです。
▼今から6ヶ月後、あなたは史上最高のチームを指揮し、
心の中で考えています。
「いやあ、素晴らしい人材が揃ったものだ!
信じられないほどの業績を達成しているぞ。」
(注)
なぜ6ヶ月後かというと、
今日の事業環境ではそれ以上の先を
見通すのは難しいからだ。
▼続いて、このチームが今はまだ達成していないが、
6ヶ月後に達成しているはずのことを書き出してもらう。
具体的な数字を挙げるとなおいい。
▼そして頭の中で、自分達がそれを達成する様子を
記録したドキュメンタリー映画を制作してもらう。
▼そして、こう尋ねる。
「さて、映画のシーンを現実のものにするには、
従業員がどんなスキルを持っている必要がありますか?」
:
:
:
さて、現実の世界に戻りましょう。
(笑)
ネットフリックス社の人事戦略を実践する。
そのためには、お金がかかります。
社長業とは『夢とロマンと資金繰り』。
夢やロマンだけを語っていてはダメ!
金策は、経営者にとって大切な任務です。
(汗)
ただ『採用コスト』は実に高い!
マイナビの2018年度調査によれば、
▼新卒の1人あたり採用単価53万円
だとか。しかし、それだけのコストをかけて、
せっかく獲得した人材も…
すぐに辞めてしまう??
2015年度の中小企業白書によれば、
▼新卒の3年以内の離職率44.2%
とのこと。
新卒採用に積極的なクライアントの
経営者はこう言いました。
「石の上にも三年。このことわざの重みをすごく感じます。
若い社員は入社しても、3年もたない。
ちょっと気に入らないことがあると、
すぐ辞めてしまう。
それでも、人出不足時代だから、
すぐに働く場所は見つかってしまう。
ゆとり世代と言うけれど、
一つの会社で最低でも3年は働かないと、
スキルは何も身につくわけないのに…
今の若い子たちは、一体何を考えているのでしょう??
日本の将来が心配ですよ。」
人手不足時代において、
採用そのものにコストがかかる。
そのうえ、新人が一人前に育つまでに
少なくとも2~3年はかかる。
しかし、ようやく仕事を覚えた頃に
退職してしまえば、
新卒に投資したコストはムダになる。
そして、再び募集する。
結果として、採用と離職を繰り返し、
コストがかさんでいく。
そんなスパイラルに陥るのです。
次に、中途採用者を見てみましょう。
マイナビ転職中途2015年採用調査によれば、
中途採用1名当たりの職種別のコストは以下の通りです。
▼営業 42.7万円
▼事務・企画 44.6万円
▼技術 41.1万円
▼販売・サービス 32.5万円
▼建築・土木 57.5万円
▼IT 49.0万円
▼専門職 35.8万円
新卒者に比べると低いものの、やはり高いですね。
ハローワークに求人募集を出せば、
黙っていても応募が来る。
そんな時代は完全に終焉しました。
採用コストは、戦略的経費として、
一定以上の投入は必要になっています。
ただご安心下さい。朗報があります。
厚労省の助成金を活用すれば、
採用コストはカバーできます。
お勧めの助成金はコレ!!
『キャリアアップ助成金
(正社員化コース)』
https://roumu-management.com/subsidy2.html
具体的には以下の通りです。
▼有期雇用を無期雇用へ
⇒ 1人あたり28万5千円(最大36万円)
▼有期雇用を正規雇用へ
⇒ 1人あたり57万円(最大72万円)
受給金額も採用コストの平均額に
近く設定されています。
人数の上限は、15人。
15人の有期労働者を正規雇用にする。
この場合、こうなります。
*最大72万円×15人=1,080万円
これなら、採用コストは心配なし??
但し、マッコード氏はこう言います。
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頭数を揃えればよいというものではない。
新しい人材を150人雇うより、
2倍の経験を積んだハイパフォーマー75人を、
2倍の給与で雇った方がよくないかしら?
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くれぐれも助成金の額に目がくらみ、
頭数を揃えることに目を奪われないように!
なお、注意点があります。
この助成金のキモは、
▼6ヶ月間の有期雇用
から労働契約をスタートすること。
6ヶ月間の【試用期間】ではありません。
6ヶ月間の【有期雇用】です。
くれぐれも間違えないようにして下さい。
つまり、入社日から6ヶ月間で、
いったん雇用契約は満了となる。
そうした前提の雇用契約でスタートしなければなりません。
就業規則の見直しも必要です。
今日も社長業を楽しみましょう。