こんにちは、JR大阪駅前のTFPグループの
税理士法人トップ財務プロジェクト代表の岩佐孝彦@税理士です。
先日の西日本豪雨のような自然災害で、
自己コントロール不能な苦難に遭遇すると、
苦難や失敗を次にいかに活かすか?
その重要性を再認識させられます。
+(プラス)。この+(プラス)には、横に棒があります。
-。そうです。マイナス。
プラスの中には、マイナスが含まれているのです。
マイナスを乗り越えてこそ、プラスになる。
これを文字通り実践した経営者。
その名は、
柳井正氏(ファーストリテイリング会長)。
そうです。あのユニクロの名経営者です。
名著『一勝九敗』(新潮文庫)。
この中で、柳井氏はこう述べられています。
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経営は試行錯誤の連続で、
失敗談は限りなくある。
商売は失敗がつきものだ。
十回新しいことを始めれば、
九回は失敗する。
「現実」はいつでも非常に厳しい。
経営環境は目覚ましいスピードで
変化していく。
そのスピードに追いつきながら
経営を続け、
会社を存続させていくには、
常に組織全体の自己革新と成長を
続けなくてはならない。
成長なくして、
企業としての存在意義はない。
そう考えている。
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『一勝九敗』と自ら称されているように、
▼野菜の通販ビジネス『SKIP』失敗
▼英国20数店舗のうち、経営不振のため大半を閉店
▼米国第一号店の失敗で閉店
▼中国進出に伴い、低めの価格設定で
ブランドイメージ低下
と失敗の連続。
ただ柳井氏は、失敗から学ぶことの重要性を力説。
近年の中国での急成長はお見事!
海外店舗の大半が中華圏に集中しており、
海外事業の要となっています。
ユニクロが一番始めに中国へ進出したのは2001年。
当初は日本同様、低価格路線を取りました。
中国では高い関税がかかるため、
原価率等を抑えるための様々な努力も実行。
結果的に売上は伸び悩みました。
低価格路線を取った結果、
現地の多数の競合に埋もれてしまったのです。
この失敗から何を学んだのか??
再度ポジショニングを見直す。
中産階級以上向けのグローバルブランドとして再出発。
現在では、商品価格は日本よりも10~15%高く設定。
高付加価値のブランドとして認識されているとか。
2010年にオープンしたパリのユニクロ旗艦店は、
行列ができるほど、パリっ子の間で話題を呼ぶ。
米国では2011年にマンハッタンのアパレル激戦区に、
大型店舗をオープン。
素晴らしい快進撃です。
しかし急成長の陰で、柳井氏は自らの苦悩を述べています。
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1990年代に出店のペースを
速めようと検討していた時、
日本の税制がブレーキになっている
ことに気づいた。
当時は、利益の約6割が税金だった。
仮に2年続けて、
10億円利益が出たとする。
約6億円が法人税等に支払われる。
おまけに前年度の税金の半分を
当年度の中ごろに、
予定納税しなければならない。
そうなると一瞬、
利益の9割が税金に消える気さえする。
急成長すると、
翌年度の上半期の資金繰りに
追われてしまう。
利益が出ていても、カネがない。
日本の税制は、
「急成長する会社」
を念頭に置いてはいないのだ。
これで残る道は、
資金を得るための株式公開しかなくなった。
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今日の税制では、法人税等の実効税率の引下げが
近年活発に行われています。
消費税も含めると、利益の約4割が税金と読めば、
上記の柳井氏のコメントも理解できます。
マイナスをプラスに転化する。
失敗を次の成功につなげる。
柳井氏の経営手腕に敬服の限りです。
税務の世界で、
▼マイナスをプラスに転化する
▼失敗を次の成功につなげる
とは一体何を意味するのでしょうか??
それは、繰越欠損金の戦略的活用です。
繰越欠損金とは簡単に言えば、
『過去の赤字』です。
法人の赤字は税法上、翌期以降に繰り越せます。
▼平成30年4月1日より前に終了した
事業年度で発生した赤字
⇒ 繰越9年OK
▼平成30年4月1日以後に開始した
事業年度で発生した赤字
⇒ 繰越10年OK
法人税率引下げと合わせ、平成28年度税制改正において、
繰越期間が長くなりました。
つまり、過年度の赤字(繰越欠損金)があれば、
今期の黒字と損益通算でき、法人税等を圧縮できます。
具体的には、以下のイメージになります。
▼繰越欠損金5000万円
(平成30年4月1日以後
開始事業年度で発生)
Ι
↓
▼平成31年度 500万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成32年度 600万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成33年度 400万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成34年度 1000万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成35年度 200万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成36年度 300万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成37年度 700万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成38年度 500万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成39年度 400万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
▼平成40年度 400万円黒字
⇒ 法人税等ゼロ
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以上のように、
繰越欠損金が5000万円あるのであれば、
10年間トータルで稼いだ利益5000万円
に法人税等は一切かからないのです。
上記の例では、法人税等は11年間ゼロ。
よって、政策的に赤字を計上し、翌期以降の税効果を得る。
これも有効な税務戦略のひとつです。
▼役員退職金の計上
▼含み損を有する不動産の第三者への売却
▼新規事業の展開
こうした形で赤字のマイナスがあっても、
翌期以降の税効果が得られます。
起こった出来事は一つでも、
考え方によって色んな重さに変わります。
だからこそ、考え方というのは大切なのでしょう。
稲盛和夫氏の名言として、
『人生・仕事の方程式
= 能力 × 熱意 × 考え方』
があります。
稲盛氏は掛け算だからこそ、考え方がマイナスであれば、
能力や熱意が高ければ高いほど、
結果は大きなマイナスになると述べられています。
苦境は正面から見てしまうから、
苦境なのかもしれません。
正面からだけじゃなく、
横からだったり、
後ろだったり、
下からだったり、
色んな角度から見ると、苦境も違う見え方になります。
第三者の視点に立って、一歩引いて大局で物事を見ていく。
要するに、発想の転換です。
手品だって、真正面からしか見られないから、
手品なのです。
後ろから見れば、色々な仕掛けが見えてきます。
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税務の世界も同じです。
松下幸之助氏はかつて『赤字は罪悪である』
と言いました。
よって、赤字に陥ったら、一刻も早く黒字化することだけに
目を奪われてしまう。
ただ一歩引いた立場から、財務体質全体を見てみる。
そうすると、
【繰越欠損金 = 税務戦略上の強み】
であることがわかります。
私どもも新規案件で、税務申告書でいの一番に注目するのは、
法人税申告書の別表(一)なのです。
もし繰越欠損金の存在が認められれば…
このマイナスをいかに経済的合理性をもって、
戦略的に活用すべきか?
知恵を絞ることから始めます。
先日の西日本豪雨において、
死者不明者の最多地域は、中国地方でした。
中国地方の皆様におきましては、
心よりお見舞い申し上げます。
私(岩佐)の本籍地も岡山県ですので、
ほんとうに胸が痛みます。
実は、柳井氏率いるファーストリテイリング社は、
山口県宇部市が創業の地。
ユニクロ発祥の地は、中国地方でした。
柳井氏のお父様が1949年、
「メンズショップ小郡商事」
という紳士小売を始めたんだとか。
柳井氏は著書の中でこう述べておられます。
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父は気性が激しく厳しい人だったので、
できるだけ会わないようにして、
過ごしていた。
とにかく怖かった。
よく仕事もするけれど、
付き合いが多く、
夜遅く帰ってくる。
小さいころから、
「何でも一番になれ」
と言われたことを思い出す。
褒められたのは、
高校と大学に合格した時ぐらいのものだ。
父のそんな姿を見ながら、
生活の全てを賭けるような日々が商売だ
とすると、
僕には全然向いていないなと
ずっと思っていた。
しかし、その洋服屋の跡を継ぎ、
さらにその延長線上にある、
ユニクロへの成り行きと父の生涯とは、
今更ながら不思議な縁があると
感じざるを得ない。
1999年2月1日に東証一部上場。
それを父に報告し、
5日後の夕食の後、父は亡くなった。
葬儀では、
「父は僕の人生最大のライバルでした」
と遺影に向かって述べた。
僕が人前であれだけ涙を流したのは、
初めてだった。
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山口県の小さな紳士服店「小郡商事」が、
グローバル展開する上場企業へ。
その陰には、父と息子の絆があった。
数々の失敗を乗り越えながら、
ガリバー企業へと飛躍させた経営手腕。
私(岩佐)を含め、
すべての中小企業経営者に学ぶべき点が多々あります。
柳井氏は山口県が生んだ名経営者です。
中国地方を初め、
豪雨の被害を受けた皆様におきましては、
柳井氏のエネルギーを拝受し、
お互い立ち上がっていきましょう。